地下鉄サリン事件

 記憶力は年を取ると共に衰える。一ヶ月前、いや一週間前のことが思い出せなくなったりする。だが年を重ねても鮮明に思い出す日もある。
 十一年前の「三月二十日」はそんな日の一つだろう。1995年、東京は朝の通勤ラッシュ時間。地下鉄のホームや駅構内でもだえ倒れるる人、口にハンカチを当てた手がけいれんする姿のテレビ映像が、いまでも目に浮かんでくる。
 しばらくは夢にまで出て来た。オウム真理教(現アーレフ)の地下鉄サリン事件である。死者十二人、負傷者約五千五百人。テロリスト集団が初めて科学兵器を使って引き起こした無差別殺傷事件は、都市型テロへの警戒を強める契機にもなった。
 テロの脅威に満ちたこの世界。3・20はテロのたびに思い出す日になるのかもしれない。
 中国新聞 3/21日 天風録より引用