大亀に襲われた話

　昔から阿多田島付近には、畳三枚ほどある大亀が居ると漁夫仲間のうわさであった。　昭和の初期、別府海岸に伴勉と言う歯科医師が居た。　よく朝釣りに出かけた人である。　ある夏の朝、馬島の浦で釣りをしていると、目の前五十メートル先辺りに何か黒い物が浮上してくる。　ぼんやり見ていると大亀の甲らしい。　見る見るうちに大亀が出て来た。　「やられた」と思った瞬間、船底に尻餅をつき腰が抜けてしまった。　唖然としていると、全容を現したのは帝国海軍の潜水艦であった。
　ハッチを開けて出て来た水兵が此方を向いて笑っている。　私は心臓は鋼鉄で自信は有りますが、あんなに驚いた事は有りません。　腰が抜けたのは初めてで、安心すると腰は元通りおさまりますでと、碁打ち仲間の笑い話しであった。
　堀田　傳　作　故郷の今昔物語より引用。

　稔りの秋　この黄金色を見ると心がなごむ。